
双極性感情障害(躁うつ病)
双極性感情障害(躁うつ病)
特徴 | 双極性感情障害 | うつ病(大うつ病性障害) |
---|---|---|
気分の変動 | 躁状態と抑うつ状態が周期的に現れる | 抑うつ状態のみが続く |
躁状態の有無 | 躁または軽躁エピソードがある | なし |
発症年齢 | 思春期〜30代で発症することが多い | あらゆる年代で発症し得る |
家族歴 | 双極性障害の家族歴があることが多い | うつ病や不安障害の家族歴が多い |
治療 | 気分安定薬が主 | 抗うつ薬が主 |
双極性感情障害、または双極性障害は、「気分の波」が大きくなる精神疾患です。以前は「躁うつ病」とも呼ばれていました。この病気の特徴は、「躁(そう)」と呼ばれる異常なほど気分が高揚する状態と、「うつ(抑うつ)」と呼ばれる気分が極端に落ち込む状態が繰り返し現れることです。これらの症状は数週間から数か月続くことがあり、日常生活や仕事、人間関係に大きな影響を及ぼします。初期症状は抑うつであることが多く、治療する上で、うつ病との鑑別が非常に重要です。
双極性感情障害は、「躁状態」と「うつ(抑うつ)状態」が繰り返される病気ですが、症状の現れ方に違いがあるため、2つのタイプに分けられます。
気分が非常に高揚する「躁状態」が明確に現れます。時に、現実とかけ離れた発想(誇大妄想)や衝動的な行動が見られ、入院が必要になるほど症状が強いこともあります。
躁の後に、重いうつ状態になることが多く、波が大きいのが特徴です。
20代前後で発症することが多く、家族に同じ病気を持つ人がいるケースもあります。
「軽躁」と呼ばれる、少し気分が高まる状態が見られますが、社会生活に支障が出ないレベルのことも多く、本人も気づかないことがあります。一方で、重いうつ状態が繰り返されるのが特徴です。
軽躁状態は「最近調子がいいな」「アイデアがよく浮かぶ」などの軽い高揚、周囲から「元気すぎてちょっと心配」と言われる程度の変化であることが多いです。その後、何もやる気が出ない、食欲がない、寝てばかりなどのうつ状態になります。
【発症の原因とメカニズム】
はっきりとした原因はわかっていませんが、遺伝的な要因や、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが関係していると考えられています。また、ストレスや生活環境の変化が発症のきっかけになることもあります。
たとえば以下のような症状がみられます。
◆ 躁状態:気分が「ハイ」になりすぎる
躁状態になると、いつもの自分とは違う過剰なハイテンション状態になります。
☑︎とにかく元気すぎる(朝から晩まで疲れ知らずで動き回る)
☑︎眠らなくても平気(2~3時間の睡眠でも活動できる)
☑︎話が止まらない(次から次へと話し続ける、他人の話を聞かない)
☑︎アイデアが次々と浮かぶ(でも整理できず、行動がバラバラになる)
☑︎お金を使いすぎる(ブランド品を大量購入、無謀な投資、ギャンブルなど)
☑︎異常な自信(「自分は世界を変えられる」「有名人と付き合える」など)
☑︎性的に奔放になる(普段はしないような行動をとることも)
☑︎怒りっぽくなる(些細なことで怒鳴ってしまう、喧嘩になりやすい)
→こうした状態が数日~数週間続くと、仕事や人間関係、金銭トラブルなど、生活に大きな支障が出ることがあります。
◆ 軽躁状態:少しハイになるが、社会生活は可能
躁状態ほど激しくはありませんが、「ちょっと元気すぎるな?」という状態です。
☑︎気分が高揚して、活動的になる
☑︎よく話し、社交的になる
☑︎睡眠時間が短くても元気
☑︎周囲から「ちょっとテンション高すぎない?」と感じられる
→本人は「調子がいい」と感じやすく、病気という自覚がないことも多いため、見逃されがちです。
◆ うつ(抑うつ)状態:気分が落ち込み、日常生活がつらくなる
うつ状態になると、こころも体も重く感じ、何をするのもつらくなります。
☑︎気分が落ち込む
☑︎何をしても楽しくない
☑︎物悲しい気分になり涙が出てくる(なんとなく悲しい気持ちが続く)
☑︎やる気が出ない(仕事や家事が手につかない)
☑︎眠れない or 寝すぎる
☑︎食欲がない or 食べすぎる
☑︎疲れやすい、体が重く何をするのも億劫
☑︎集中力が落ちる(テレビや本が頭に入らない)
☑︎自分を責める(「自分なんていない方がいい」と思う)
☑︎死にたいと思う
→この状態が2週間以上続くと「うつ状態」と判断されることが多いです。
◆ 気分が安定している時期もある
双極性障害の人は、常に症状が出ているわけではありません。躁状態とうつ状態の間に、「気分が安定している時期(寛解期)」があります。この時期をいかに長く安定して過ごせるかが治療の鍵になります。
◆ 周囲の方からの気付き
双極性感情障害は、本人が「病気」と自覚しづらいこともあり、家族や友人、同僚など、周囲の方が最初に異変に気づくことが少なくありません。特に躁状態や軽躁状態のときは「元気で調子が良さそう」と見えてしまい、見過ごされることもあります。
以下のような変化に注意してください。
☑︎いつもよりテンションが高すぎる、しゃべり続ける
☑︎「最近調子がいいな」「アイデアがよく浮かぶ」などの高揚
☑︎突然、大きな買い物や投資を始めた
☑︎夜遅くまで活動しているのに疲れを見せない
☑︎計画性のない行動(急な転職や旅行など)を繰り返す
☑︎服装やメイクが派手になる、行動が大胆になる
☑︎怒りっぽくなり、攻撃的な態度が増える
☑︎仕事や家庭で突然トラブルが増えた
☑︎元気がなく無気力
☑︎口数が減り会話を避けるようになる
☑︎表情が暗く笑顔が減る
☑︎急に連絡が取れなくなる、約束を守れなくなる
☑︎体調不良を訴えることが増える(頭痛、倦怠感など)
☑︎「自分はダメだ」「いなくなった方がいい」など悲観的な言動が増える
☑︎身なりや生活がだらしなくなっている
→ 躁状態では、これまでと明らかに違う行動パターンやテンションに周囲が戸惑うことが多いです。うつ状態では、日常生活の中での「ちょっとした変化」を家族や友人が感じ取りやすいです。
双極性感情障害の治療は、症状を一時的に抑えるだけでなく、再発を予防し、安定した生活を送るための長期的なアプローチが必要です。治療は以下の3つの柱を中心に行います。
双極性障害の治療において、薬物療法は中心的な役割を果たします。患者様の現在の状態(躁・うつ・混合状態)や再発予防の観点から、慎重にお薬を選択・調整していきます。
気分安定薬(ムードスタビライザー)
例:炭酸リチウム、バルプロ酸(デパケン)、カルバマゼピン
主に躁状態の抑制と再発予防に用いられます。
抗精神病薬(非定型抗精神病薬)
例:クエチアピン、オランザピン、ラモトリギンなど
躁・うつ・混合状態いずれにも対応する柔軟な薬剤です。
抗うつ薬
うつ状態に使用されることもありますが、躁転(うつから躁への急激な変化)を引き起こす可能性があるため、慎重な判断が必要です。
当院では、副作用や効果を丁寧に確認しながら、必要に応じて薬剤を調整していきます。
薬だけでなく、「気分の波に振り回されずに生活する力」を身につけることも大切です。
認知行動療法(CBT)
ネガティブな思考パターンに気づき、行動の柔軟性を育てます。
心理教育
(ペイシェントエデュケーション)
病気の特徴や、再発のサイン(兆候)に気づく力を高めるプログラムです。
ご家族へのサポート
家族療法や説明会を通じて、支える側の理解と協力体制も整えていきます。
双極性障害は、生活リズムの乱れや強いストレスが再発のきっかけになることがあります。
そのため、以下のような生活習慣の指導も行います。
双極性障害は治療可能な病気です。
薬物療法
気分安定薬、抗うつ薬、抗精神病薬などを組み合わせて使用します。
精神療法(カウンセリング)
疾患への理解を深め、再発予防のための生活リズムやストレス管理を学びます。
生活習慣の改善
規則正しい睡眠、適度な運動、ストレス回避などが重要です。
双極性障害の場合、うつ状態のときも、抗うつ薬ではなく、気分安定薬が用いられます。抗うつ薬を使うと、短期的には有効な場合があっても、将来的な気分変動を悪化させるリスクがあるからです。ただし、双極性うつ病の治療にはあまりいい薬がありませんでした。
例えばリーマスの場合、ある程度の効果はあるのですが、躁状態には2週程度で効果が現れることが期待できるのに対して、うつ状態への効果発現は6週程度とより長くかかるようです。また、効果がなかなか出ないケースも多いのです。
最近、新規抗精神病薬のオランザピン(ジプレキサ)、抗てんかん薬であったラモトリギン(ラミクタール)という薬が双極性うつ病に使えるようになりました。これらの薬は双極性障害の病相予防効果が高く、うつ状態を改善する作用が他の薬物よりも強いため非常に期待されています。
最近、躁状態が軽度(軽躁状態)で、本人も周囲の人も病的と思わない双極性障害Ⅱ型という病気が話題になっています。軽躁状態では、自信が高まり、仕事を精力的にこなします。また睡眠欲求の減少といって睡眠時間が短くてほとんど疲れを感じなくなります。寝不足でも頑張っているのとは違い「寝不足感」が出ないのです。平日に働きすぎて、休日はぐったり溜め寝・・・などということもなく、プライベートも活発になります。しかし、社会的にひどく逸脱するような行為には走らないので、病気には見えないわけです。ですから、軽躁状態で受診するということはまずありません。
双極性障害Ⅱ型の患者様が受診するのは、うつ状態のときがほとんどです。そのうつ状態だけを見ると、はっきりとしたストレスに対する反応としての適応障害と思われることもあれば、単極性うつ病(いわゆるうつ病)と区別がつかない症状を示していることもあります。この場合、双極性障害であることを見逃して、抗うつ薬を投与してしまうと、なかなか治らないだけでなく、躁状態を誘発したり、将来的に気分の変動を激しくしてしまったり、などの有害なことが起こりえます。そこで、以前に軽躁状態と思われる時期があったかを問診で確認することが診断のために重要なのですが、これは意外と難しいことなのです。実際に、うつ病と診断された患者様の3割程度がのちに双極性障害と診断し直されることが分かっていますし、双極性障害の患者様の3割は正しく診断されるまで10年以上かかってしまうとも言われています。うつ病の治療を長く受けているのに、なかなかよくならない場合、以前に軽躁状態と思われるエピソードがなかったかを、本人・家族・主治医で、もう一度話し合ったほうがいいかもしれません。抗うつ薬中心の処方から、気分安定薬中心の処方へ切り替えることで改善することもあります。
双極性感情障害は、「元気すぎる」→「落ち込みすぎる」→「また元気すぎる」…というように、気分が大きく揺れ動くのが最大の特徴です。
本人も「なんでこんなに気分が変わるのかわからない」と困ってしまうことが多く、周囲の理解やサポートもとても大切になります。
もしこのような「気分の波」に思い当たることがある場合は、一人で抱え込まず、どうぞご相談ください。
早期の診断と治療で、より良い日常を取り戻すことができます。
周囲の方は、無理に指摘せず「心配しているよ」と気持ちを伝え、話を聞いてあげるだけでもご本人にとって大きな支えになります。
状況によっては専門医への受診を勧める、受診に付き添うことも重要です。
当院では、ご家族の方からのご相談も受け付けております。
「ちょっと気になる」「少し違和感がある」
——その気づきが、早期の診断・治療につながります。おひとりで悩まず、お気軽にご相談ください。
当クリニックでは、双極性障害に対して一人ひとりの症状とライフスタイルに合わせたオーダーメイドの治療を提供しています。
双極性感情障害は、特にうつ状態の時期には「うつ病」と非常によく似た症状を示すため、初期の診断では見分けがつきにくいことがあります。
しかし、治療法が大きく異なるため、正確な鑑別が極めて重要です。
これまでに異常なほど気分が高まったこと(軽躁・躁状態)がなかったかを詳しく聞き取ることが大切です。
例えば「よく眠らなくても元気だった」「話し続けて止まらなかった」「買い物や仕事で無謀な行動をした」などの経験がある場合は、双極性障害の可能性があります。
ご本人が気づかないことも多く、ご家族や周囲の方の話が診断に役立つこともあります。
双極性感情障害とうつ病は治療法が異なり、誤った診断によって症状が悪化する場合もあります。
当院では、丁寧な問診と診察を通じて、患者さまのこれまでの経過や気分の変化を細かく確認し、慎重に鑑別診断を行います。
また、必要に応じて心理検査や家族面談なども行い、より正確な診断と適切な治療方針を一緒に考えてまいります。
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